バリアフリーNOW バリアフリーを求めている人、バリアフリーに取り組む人、バリアフリーを考えている人の生の声、活動などをインタビューでお届けします。

vol.5
『情報があり過ぎて情報弱者が生まれている。
 そんな現状を何とかしたい』

1991年に創刊された『京都子連れパワーアップ情報』は、7000部があっという間に完売。以降、この情報誌は継続的に発行され、現在は11号が発売中だ。何でもネットの時代にあえて手間もコストもかけて、印刷物を発行し続けるのはなぜだろうか。情報の洪水が情報弱者を生んでいる現状を何とかしたい。そんなNPO法人おふぃすパワーアップの問題意識についてお話を伺った。


■第一回『情報がないから虐待が起こるんですよ』

児童虐待がときどきニュースになるでしょう。でも、いま子育て支援の行政メニューが、どれだけ充実しているかご存じですか」

丸橋さんは、京都府の参与としてもさまざまな委員会活動に携わっている。委員会でよく、有識者達が指摘するのが次の問題だという。すなわち行政は数多くの母親支援メニューを用意しているのにもかかわらず、あまり利用されていない。その理由は、お母さんたちが支援メニューがあることを知らないからではないか、と。

「要するに情報を取れないお母さんが増えているんじゃないでしょうか。病気の時などの緊急保育から各種補助金まで、子育て支援のメニューはたくさん揃っています。ところが、どうも、そうした情報がお母さんたちにまで届いていないようなんです」

意外な指摘である。世は情報化社会なのだ。どんなことでもちょっと検索するだけで、たちどころに答を知ることができる。そんな便利な時代になっているはずではなかったか。

「確かに行政のホームページを丹念に見ていけば、支援策はちゃんと書いてあります。ところが、それが簡単には見つからないのです。深い階層まで辿っていかないと、欲しい情報にたどり着けないこともしばしば。何でも携帯電話で済ませる若いお母さんたちには、深いところにある情報は見つけられないのではないでしょうか」

総務省の通信利用動向調査によれば、インターネット利用端末として携帯がパソコンに迫る勢いで増えている。まわりを見渡してみればどうだろうか。20代以下に限れば、ケータイ派の方が圧倒的に多いのではないか。若いお母さん達も携帯派だとすれば、その小さな画面で自治体のサイトなどを細かく見ていくことは、実際問題不可能に近いだろう。

「もちろんネットだけに頼らなくとも、例えば新聞の地方版などを丹念に読んでいれば、支援情報が載っていることもあります。でも、そもそも若い人たちは新聞なんか読まないでしょう。もう一つ、もっと深刻な問題があるんじゃないかと思うんです。今はあまりにも情報が多すぎるんですよ。膨大な情報を前にして呆然としてしまう人、最初から探すことを諦めてしまう人が急増している。そうは思いませんか」

極めて鋭い指摘だ。情報が増えてくると、単純なキーワード検索ではヒットする検索結果が多すぎて、求めている情報が埋没してしまう。しかも情報が増えれば増えるほど、ノイズ情報も混ざってくる。多様な検索技術を使いこなせない人や、ノイズを自分でうまくフィルタリングする能力のない人には、求めている情報を手早く見つけることが困難だ。

「以前なら他の情報ネットワークもあったんです。例えば隣近所のお付き合いの中でいろいろ教えてもらえたりとかね。ところが、リアルな世界での付き合いも減ってきています。昔のように近所に世話焼きのおばさんがいて、困っている若いお母さんを助けてくれる、なんてこともないでしょう。お母さん同士の交友関係も、昔と比べればずいぶん縮まっているようです。幼稚園や小学校でのPTA活動を嫌がる人も多い時代ですから」

一方ではなまじ情報化が進み、やり取りは何でもケータイメールで済ませるようになってきた。リアルな口コミ情報の回路はもはや風前の灯火である。

「確かに情報は増えているけれど、欲しい情報を手に入れることが難しくなっている。情報格差は以前よりひどくなっていて、いわゆる情報弱者といわれるお母さんが増えている。その結果、助けをさしのべてもらえない子どもがいるとしたら、これは悲劇でしょう」

だからNPO法人おふぃすパワーアップは、印刷物での情報提供にこだわっているのだ。

「子育てはほんとうに大変です。しかも頼れる地域コミュニティがなくて、核家族化でおばあちゃんも傍にはいない。お母さんは誰にも助けてもらえない。まして専業主婦なら、子どもと自分だけで家に閉じこもっている。これはしんどいですよ。そんなつもりはなくても、つい子どもに当たってしまうことだってあるかもしれない。そんなお母さんに、どこかにおでかけして『ほっこり(ほっとする。疲れたけど安堵することを意味する京言葉)』して欲しいんです」

だから、丸橋さんは『京都子連れパワーアップ情報』を創刊し、ざっと20年もの間、きちんきちんと発行し続けてきたのだ。



NPO法人 おふぃすパワーアップのホーム・ページ




創刊時の『京都子連れパワーアップ情報』




NPO法人 おふぃすパワーアップ
代表 丸橋泰子
http://www.office-powerup.com/

第二回『小さな子ども連れの外出は重労働

「今年私たちは、国土交通省のモビリティサポート事業を受託しました。子連れのお母さんたちの京都観光をサポートするため、いくつかの観光地で多目的トイレなどのバリアフリー施設の状況を調べて、その場所などが直感的にわかるiPhoneアプリを作ります」

目的は子連れお母さんの観光支援である。時に地下鉄の階段などで、二進も三進もいかなくなっているお母さんを見かけたことはないだろうか。片手にベビーカーを持ち、もう一方の手で子どもを抱っこする。その肩にはマザーズバッグをかけている。

「マザーズバッグは、オムツやら水筒やらが入っているから、結構重いんです。荷物と子ども、さらにベビーカーまで持って階段を上がったり下がったりするのは、ほんとに重労働。だから子連れお母さんは、地下鉄の駅ではまずエレベーターを探すんですよ」

子連れで観光するときにも、同じ苦労がつきまとう。京都の寺社仏閣などはバリアフリー対応が進んでいるが、実際に子連れのお母さんの視点でチェックしたときに、どう映るのだろうか。

「国交省の事業を実施するため私たちは、京都子連れ観光推進協議会を立ち上げ、まず事前調査を行いました。調査地に選んだのは嵐山です。あそこなら少なくとも平坦だし、有名な観光地だから施設整備も進んでいるんじゃないかと期待したんです」

ところが、残念ながら、子育てママから合格点をもらうには、いま少しの改善が求められるようだ。例えばトイレの問題である。

「確かに多目的トイレはきちんと整備されたものがあります。しかし数が少ない。私たちが調査に行ったのは真夏で、人出がそれほど多くなかったのですが、これが観光シーズンだとちょっと心配ですね」

トイレに和式が多いことも問題点として指摘された。ほとんど洋式しか使ったことのない今の子ども達は、和式では用を足せない可能性が高い。

「赤ちゃんにお乳をあげる場所もないんです。授乳しようと思えば公園の隅っこの方で隠れてあげるしかない。道ばたのお土産屋さんなども、お母さんとしてはとても気を遣うところです。理屈のわからない子どもは、何でもすぐ触りたがりますからね」

こうしたいくつものハードルが、結果的にはお母さんたちの外出意欲を殺いでしまう。出かけるのが億劫になり、ついつい家に閉じこもってしまうのだ。しかし子どもとずっと家にいるだけでは、気晴らしができない。それでなくとも精神的に疲れているお母さんには『ほっこりする(ほっとする。疲れたけど安堵することを意味する京言葉)』ことが何より必要なのだ。

「20年前には施設も情報も不足していました。だから情報誌を立ち上げたんです。とにかく子連れで楽しめるお出かけ情報を、一人でも多くのお母さんに届けたいと思いました。このコンセプトは創刊以来ずっと変わりません。その創刊号で特に私がこだわったのが、実はトイレ情報だったんです」

二昔ほども前の話である。デパートなどにお買い物に出かけたときに、一番困ったのがやはり子連れで入れるトイレを見つけることだった。バリアフリー法が施行されるはるか以前のことだ。

「あの頃身についたクセが未だに抜けなくて、どこに行っても、まずトイレをチェックしてしまいますね(笑)」

丸橋さん達の思いが詰まった情報誌『京都子連れパワーアップ情報』は、爆発的に売れた。

「企画段階で、とある本屋さんに話を持っていくと、必ず売れる、うちで売るからとおっしゃってくださいました。実際、その本屋さんでは2回も週間売上第一位になりました。初版の1000部はすぐに売り切れてしまい、5回増刷をかけました」

お母さんたちはみんな、情報がなくて困っていたのだ。以来約20年間にわたり、同じコンセプトで情報を吟味し更新し続けてきた。いま丸橋さん達が考えているのは、全国に向けた情報発信である。

「国交省の事業もその一環です。全国の子連れお母さんに、もっともっと京都に来て欲しい。だから子連れの観光客を受け入れてくれる旅館の調査などにも取り組んでいます」

一般的な京都観光の情報は、いくらでもある。しかし、子連れという条件が加わると、情報量はぎゅっと絞られてしまう。

「せっかく京都まで観光に来てくれているのに、宿泊だけは大阪に行ったり滋賀に流れたりしているみたいなんです。もったいないですよね」

若くて元気な子育てお母さんにも、意外なバリアがあった。そのバリアを少しでも取り除こうとするNPO法人おふぃすパワーアップさんの考え方や活動には、大いに学ぶところがある。特に情報洪水が情報弱者を生み出している現実は、いま一度誰もがしっかり再認識すべきポイントだ。



オフィス内には、子ども連れで研修や仕事に来る子育てお母さんのために、子どもが遊べるスペースが用意されている。




幼稚園や保育園情報に特化した情報誌も5号まで発行されている。




NPO法人 おふぃすパワーアップ
代表 丸橋泰子
http://www.office-powerup.com/

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