キャッチフレーズは「車いすでおこしやす」。学生プロジェクト『easy京都観光』は、車イスで古都京都を快適に観光するための情報提供に取り組んでいる。同志社女子大学と同志社大学の学生のメンバーが観光コースを実地調査し、その結果をフリーペーパーとウェブサイトで提供する。プロジェクトリーダーの桑原梨紗さんに、活動に賭ける思いを伺った。
「車いすの方には、どんな情報を提供すればいいのか。プロジェクトは、提供する情報項目を考えることからスタートしました」 もとよりメンバーに車いすユーザーがいるわけではない。企画会議では、若い感性と想像力を頼りにさまざまな項目案が出されたという。 「どんなにゆるい坂に見えたとしても、坂道なら傾斜角度を調べた方がいいのではとか、砂利道については砂利の大きさまで測るべきじゃないかとか。そもそも私たちは、バリアフリーについての専門家ではありません。素人発想だからこそ、思いつく限りの情報を集めようと決めたのです」 寺社仏閣の参道には、たいてい砂利が敷き詰めてある。玉砂利には、宗教的な意味が込められているのだ。ところが車いすユーザーにとって砂利道は、手強いバリアとなる。砂利に埋もれるタイヤを力任せに押して進むのは、大の男でも難しいだろう。 「結果的には、砂利の大きさはほとんど関係ありませんでした。大きさがどうであれ、砂利道を車いすで移動するのは無理だとわかりましたから。ただ、きめ細かく調べる視点は、貴重な気づきを与えてくれました。例えば、ひとくちにバリアフリートイレといっても、場所によって微妙に便座の高さが違うのです」 健常者が便座の高さの微妙な違いに気づくことなど、まずないだろう。しかし車いすユーザーによっては、わずか数センチの高低差のために、トイレを使えないこともある。出先で入ったトイレが、もし使えなかったら……。外出時にはいつも、そんな不安につきまとわれるのが、車いすユーザーである。 「不安があるから、出かけるのがついおっくうになるんですよね。思いきって外出してみたのはいいけれど、トイレが使えなかったらどんな気分になります? 付き添いの人に迷惑かけちゃうなあとか、悪いよなって思ってしまうでしょう。そんなの気にしなくてもいいよっていくら言ってもらっても、心理的な負担は消えない。そこで事前にきめ細かな情報があれば、安心して出かけられるじゃないですか」 桑原さんたちの問題意識は、我々が『えきペディア』立ち上げにあたって抱いていたテーマとまったく同じ。車いすユーザーが出先で立ち往生しないために、何より必要なのが情報である。 「とにかく調査にはみっちり時間をかけました。夏休みを利用して、京都の観光地をできる限り調べて回りました。ほんと毎日暑くて大変で、かき氷を一日二杯食べたりしてがんばりました」 汗まみれになりながらメンバーが調査して回った観光スポットの中には、印刷前、ギリギリの段階で掲載拒否を通知してきたところもあるという。 「観光パンフレットを見るとバリアフリーと書いてあるんです。だから調査に行ったのに、いざとなると掲載しないで欲しいと言う。理由をたずねると、もし私たちのフリーペーパーを見て、実際に車いすの方が来られたら、現実問題としては対応できないからだとか。なんだか悲しい話ですね」 掲載を拒む事情を理解できないこともない。今どきバリアフリーではない、とパンフレットに表示すればネガティブイメージを生みかねない。そこで施設を見直し、必要な設備は整えた。だからといって、いきなり車いすユーザーが訪ねてくると、人的な対応ができないのだろう。トラブルでも起これば、お手上げである。 「物見遊山で巡るのと、調査して回るのとでは、観光地はまったく違う姿を見せることもよくわかりました。いろいろな意味で勉強になりました」 紆余曲折を経ながらも、24ページにまとめられたフリーペーパーは、地元の京都新聞が大きく取りあげた。
第二回『外出を楽しいものにしたい』へ続く
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同志社ローム記念館プロジェクト・easy京都観光 | |
「実は近しい人に障がい者がいるんです。そのおかげで幼い頃から障がい者の方たちとも、わけ隔てなく付き合って仲良くしていました。だからよけいに、障がい者と社会の間で起こるムダな摩擦が気になっていたのです」 |
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