障がい者ではなくチャレンジド。「ICTを駆使してユニバーサル社会の実現をめざす」社会福祉法人プロップ・ステーションの理事長を務めるのが竹中ナミさん、通称ナミねぇだ。チャレンジドを含むすべての人が「持てる力を発揮し、支え合うという誇り」を持って生きられる「ユニバーサル社会」の実現をめざすナミねぇに、活動に秘める思いを伺った。
「優しさが、日本人のええとこでもあり、悪いとこでもあるんです。障がいを持っている人を見たら、かわいそうやな、何か手伝ってあげなあかんなって、みんな思うでしょ」 第二回『常識から外れてもええのと違う』へ続く
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運営者 社会福祉法人プロップ・ステーション 理事長 竹中 ナミさん プロップ・ステーションのホームページ http://www.prop.or.jp/index.html | |
「せめてぎゅっと抱きしめてあげようとしたら、パニックを起こすの、うちの娘は。この子にとって私はゴミみたいな存在やねんなって。これがが私のスタートやね」 ナミねぇの娘さんは今年36歳、生まれたときから全盲である。聴覚はあるが、言葉の意味はわからない。声は出るけれども、言葉を発することはできない。体もぐにゃぐにゃで、幼い頃は後ろ向けに真っ二つに折れ曲がったという。 「それでも本人は痛くはないんだけれどね。うちの父なんか最初は、この子を連れてわしが死んだるって騒いでた。でも、それはおかしいでしょう。同じ生まれてきても障がいがあるとないだけで、何もかもが何でこんなに違うの。もし、それが世間のルールやとしたら、そのルールの方がおかしい。そんなおかしなルールに従う気はないぞって私は決めたの」 ナミねぇがプロップ・ステーションを引っ張り続けている原動力は、この決意なのだろう。障がいを持っていたって幸せになって良いし、そもそもその家族が世を憚ってひっそり暮らす必要なんてさらさらない。当たり前の話である。 「確かにハンディはある。だからこそ、挑戦せんとあかん。これがチャレンジドの考え方でしょう。チャレンジするときには世間のルールなんて、とりあえずカッコに入れてしもたらええと思う。私らが変わるのやなくて、世の中の方が変わったらええねんって思うの。ちょっと厚かましい考え方かもしれないけど」 既存のルールは、健常者が、あくまでも健常者の視点から創りあげてきたものにすぎない。そのルールがそのまま、障がいを持っている人にすんなり当てはまると考える方がおかしいのだ。ルールが現実にそぐわないのなら、誰かが声を上げて変えなければならない。 「そのためにも、きちんと働くことが大事やと思いました。とはいえ実際問題、体のどこかに不自由を抱えているわけでしょう。どうやったら働けるのかと考えていたときに、チャレンジド自身から声が上がったの。僕らもコンピュータを使ったら、きっと働けるって。それがスタートでした」 時代が味方した。インターネットを使えば、働く場所の制約から解放される。そもそもコンピュータは本来、人の能力をエンパワーメントするツールだ。 「字がわからん子はコンピュータの中にある辞書を見たらいいし、計算が苦手やったらそれこそコンピュータの出番でしょう。コンピュータは、まさに私たちのための道具なんですよ。しかもインターネットがつながっていれば、ベッドの上でも仕事をできる」 方向性が決まれば、あとは突き進むだけだ。ナミねぇは自らギネス級と誇る口と心臓を駆使して、組織のコーディネイトに奔走する。 「コンピュータをタダで貸してくれる人、みんなが集まる場所を無償で提供してくれる人、ボランティアで技術を教えてくれる人。とにかくお金は見事なぐらいにないけれど、そこは度胸で何とかしようと」 ただし決して安易に妥協しないのもナミねぇ流である。講師にはいずれも、その道の一流を呼んできた。 「教える人にもチャレンジしてもらったらええと思ったわけ。そうしたら教え方を工夫してくれるやないですか。それがきっと彼らの役にも立つ、厚かましくもそう信じてお願いしていました。はっきりいえば、習う方はその技術でお金を稼ぐつもりなんです。だから趣味程度の人から教えてもらったんでは役に立ちませんから」 ときにナミねぇはアメリカでバリアフリーの交通調査にも携わったことがあるという。アメリカにいるプロップ・ステーションのカウンターパートを通じて調査をしてみて、改めて日本のすごさとひどさを認識したのだ。 「間違いなくハードは日本が世界一やと思いました。ところが、使えない。例えばJRさんで障がい者割引をもらうために、どうしたらいいか知ったはりますか。事前に駅長室まで行って、書類を出してお願いせんとあかんのですよ。ただでさえ動くのがしんどい障がい者に、二度手間を求める。こんなにまでして半額にしてもらわなくてもええのんとちゃうって思いました」 おそらくは過渡期ならではの現象なのだろう。このあたりの対応は交通機関によってバラツキもあるようだ。 「阪急さんは最初、子ども運賃を選んでくださいって言ってました。でもそれはあまりに不自然でしょう。だから券売機に半額ボタンを付けてくれた。これだけでも大きな前進ですよね」 地下鉄駅の構内案内図もごちゃごちゃしていてわかりにくいという。確かに公共交通機関の運営サイドとしては、あらゆる情報が網羅されていなければならない。これは宿命である。しかし、そのために結果的に情報弱者が生まれている。 「そもそも駅の案内図はほとんど頼りにしてない。見てもよくわからんからね。そういえば日本は東京駅がバリアフリーとはいえないのも残念。カタコンベみたいな地下道に案内されて、業務用エレベーターに乗せられるんやから。これが国際都市東京の玄関口かと思うと、ちょっとねえ」 健常者の視点から抜け出すのは、ことほど左様に難しいのだ。それはいみじくもナミねぇが訴える、日本人の優しさに根を発する現象でもある。 「僕ら、こんなに障がい者の人に手厚くしてるのに、何があかんのですかって。行政の人と話をすると、どうしてもそこに行き着くんやね。 手厚くしてくれることを否定はしませんよ。でも、違うねん。 みんなチャレンジドとして、普通に働きたい、生きたい。 それだけなんですよ。 チャレンジドも含めて、ほんとうの国民主権、主権在民の国にするために、まだまだ改善せなあかんところがいっぱいあります。えきペディアさんとも一緒にがんばってくださいね。娘のおかげで、昔不良やったナミねぇは更正してプロップの活動してるねん。 娘は私の恩師で宝物やわ!」と、ナミねぇは締めくくってくれた。 |
運営者 社会福祉法人プロップ・ステーション 理事長 竹中 ナミさん プロップ・ステーションのホームページ http://www.prop.or.jp/index.html |