バリアフリーNOW バリアフリーを求めている人、バリアフリーに取り組む人、バリアフリーを考えている人の生の声、活動などをインタビューでお届けします。

vol.2
『自分を痛めつけるようなルールは変えてええんよ』

 障がい者ではなくチャレンジド。「ICTを駆使してユニバーサル社会の実現をめざす」社会福祉法人プロップ・ステーションの理事長を務めるのが竹中ナミさん、通称ナミねぇだ。チャレンジドを含むすべての人が「持てる力を発揮し、支え合うという誇り」を持って生きられる「ユニバーサル社会」の実現をめざすナミねぇに、活動に秘める思いを伺った。


■第一回『障がい者、なんて言うからあかんの』

「優しさが、日本人のええとこでもあり、悪いとこでもあるんです。障がいを持っている人を見たら、かわいそうやな、何か手伝ってあげなあかんなって、みんな思うでしょ」

のっけから意外な言葉が飛び出してきた。かわいそうと思うのはごく自然な感情の流れ、そしてお手伝いするようにとは、おそらくは誰もが学校で教わってきたことだ。しかし、それがダメなのだとナミねぇは指摘する。

「魔物なんですよ、かわいそうという言葉は。だって、ちょっと考えてみて欲しいの。相手のことをかわいそうと思った瞬間に、立ち位置に上下関係ができるでしょう。同情する人が上、同情される人が下、すでに対等と違うやないですか」

言われてみれば、その通り。もちろん、何かお手伝いしましょうかと声をかけるとき、自分に優位性があるなどと意識する人はほとんどいないだろう。しかし、手伝ってもらう側の目には、違った風景が見えているのだ。

「日本人の情の深さはええところでもあるんです。そやけど、かわいそうやなと思ったときには必ず、一回立ち止まって考えて欲しいの。たまたまこの人は障がいを持っているけれど、自分と同じなんやでって。同じように楽しみ、働き、喜んで、誇りを持って暮らしたい人やねんでって。そのためにはどうしたらええのかを、みんなも考えてあげて」

ナミねぇのいちばん根っこにある考え方だ。そして社会法人プロップ・ステーションがめざしている社会像でもある。

「例えば横断歩道の向こう側から車イスの女の子がこっちにきた。普通やったら、何か手伝ってあげようって、それしか考えへんでしょ。そうやないねん。手伝わなって思った瞬間から、相手のことを普通に見てないんやから」

障がいを持っている人を見かけたら、まず頭に浮かぶのがお手伝いなのだが、その発想を変える必要があるのだ。一体どう考えればいいのか。

「ちょっとだけ相手の立場で考えてあげてほしいの。たまの外出なんだからたぶん、その子は普段よりオシャレしてるはず。だから、どんな色やデザインの服を着ているかちゃんと見てあげて。もし、その服がええなあって思ったら、そのことを言葉にしてあげてほしい。それがどれだけうれしいことかわかります?」

ナミねぇが強調するのは、車イスという目に見えるシンボルに捕らわれてはいけないということ。人を『障がい者』といった言葉で十把一絡げにしてはダメなのだ。

「そもそも、日本ぐらいと違う? 障がい者なんてひどい言葉を未だに使っているのは。障害者の害をひらがなにするようになったけど、そんなんは小手先でしょう。アメリカならチャレンジド、北欧でもこの言葉が広まってきてます。わかりにくい横文字かもしれないけど、言葉は哲学なの。チャレンジドは、そもそも日本にはなかった考え方なんやから、言葉とその背景にある考え方を、そのまま受け入れないと仕方ないやん」

バリアフリー、ユニバーサルデザイン、ノーマライゼーション。これらの言葉は今のところ日本語に置き換え不能だ。そのこと自体が悲しいかな、日本の現状を表しているのだろう、言葉の元となる考え方がない限り、その考えを表現する言葉が生まれるはずもない。

「お上からしてそうやからね、日本は。役所は二言目には、障がい者の方々にこんなに補助金も出して手厚くしてますからとか言うでしょう。もちろん補助金が要らないとか悪いというわけじゃない。でも補助金さえ出しておけば、事足れりというのは違うでしょう。私らはちゃんとした仕事をくれませんかって言いたいの」

補助金を受ける側からすれば、これも当然の考え方なのだ。補助金は所詮、施しである。人の施しで生きることと、きちんと仕事をして自らが社会に何らかの貢献をし、その対価として受け取った報酬で暮らしを成り立たせるのとでは、月とすっぽんほどの違いがある。

「人はみんな、そうと違うのかな。これあげるわ、と言われて施しをもらうより、これやってもらえませんかって、お願いされる方が百万倍うれしいやないですか。なのに障がい者には何もできないって、どうして決めつけるんやろね」

こうした問題意識がプロップ・ステーション立ち上げにつながったのだ。

第二回『常識から外れてもええのと違う』へ続く


車イスに乗ったチャレンジドが集まるセミナー。みんな、とても真剣だ。


プロップ・ステーションのホームページ。
ここにはチャレンジドの自立への、ナミねえの想いが詰まっている。


どんな色やデザインの服を着ているかちゃんと見てあげて。
もし、その服がええなあって思ったら、そのことを言葉にしてあげてほしい。


運営者
社会福祉法人プロップ・ステーション
理事長 竹中 ナミさん
プロップ・ステーションのホームページ http://www.prop.or.jp/index.html

(写真提供:社会福祉法人プロップス・テーション)

第二回『常識から外れてもええのと違う』

「せめてぎゅっと抱きしめてあげようとしたら、パニックを起こすの、うちの娘は。この子にとって私はゴミみたいな存在やねんなって。これがが私のスタートやね」

ナミねぇの娘さんは今年36歳、生まれたときから全盲である。聴覚はあるが、言葉の意味はわからない。声は出るけれども、言葉を発することはできない。体もぐにゃぐにゃで、幼い頃は後ろ向けに真っ二つに折れ曲がったという。

「それでも本人は痛くはないんだけれどね。うちの父なんか最初は、この子を連れてわしが死んだるって騒いでた。でも、それはおかしいでしょう。同じ生まれてきても障がいがあるとないだけで、何もかもが何でこんなに違うの。もし、それが世間のルールやとしたら、そのルールの方がおかしい。そんなおかしなルールに従う気はないぞって私は決めたの」

ナミねぇがプロップ・ステーションを引っ張り続けている原動力は、この決意なのだろう。障がいを持っていたって幸せになって良いし、そもそもその家族が世を憚ってひっそり暮らす必要なんてさらさらない。当たり前の話である。

「確かにハンディはある。だからこそ、挑戦せんとあかん。これがチャレンジドの考え方でしょう。チャレンジするときには世間のルールなんて、とりあえずカッコに入れてしもたらええと思う。私らが変わるのやなくて、世の中の方が変わったらええねんって思うの。ちょっと厚かましい考え方かもしれないけど」

既存のルールは、健常者が、あくまでも健常者の視点から創りあげてきたものにすぎない。そのルールがそのまま、障がいを持っている人にすんなり当てはまると考える方がおかしいのだ。ルールが現実にそぐわないのなら、誰かが声を上げて変えなければならない。

「そのためにも、きちんと働くことが大事やと思いました。とはいえ実際問題、体のどこかに不自由を抱えているわけでしょう。どうやったら働けるのかと考えていたときに、チャレンジド自身から声が上がったの。僕らもコンピュータを使ったら、きっと働けるって。それがスタートでした」

時代が味方した。インターネットを使えば、働く場所の制約から解放される。そもそもコンピュータは本来、人の能力をエンパワーメントするツールだ。

「字がわからん子はコンピュータの中にある辞書を見たらいいし、計算が苦手やったらそれこそコンピュータの出番でしょう。コンピュータは、まさに私たちのための道具なんですよ。しかもインターネットがつながっていれば、ベッドの上でも仕事をできる」

方向性が決まれば、あとは突き進むだけだ。ナミねぇは自らギネス級と誇る口と心臓を駆使して、組織のコーディネイトに奔走する。

「コンピュータをタダで貸してくれる人、みんなが集まる場所を無償で提供してくれる人、ボランティアで技術を教えてくれる人。とにかくお金は見事なぐらいにないけれど、そこは度胸で何とかしようと」

ただし決して安易に妥協しないのもナミねぇ流である。講師にはいずれも、その道の一流を呼んできた。

「教える人にもチャレンジしてもらったらええと思ったわけ。そうしたら教え方を工夫してくれるやないですか。それがきっと彼らの役にも立つ、厚かましくもそう信じてお願いしていました。はっきりいえば、習う方はその技術でお金を稼ぐつもりなんです。だから趣味程度の人から教えてもらったんでは役に立ちませんから」

ときにナミねぇはアメリカでバリアフリーの交通調査にも携わったことがあるという。アメリカにいるプロップ・ステーションのカウンターパートを通じて調査をしてみて、改めて日本のすごさとひどさを認識したのだ。

「間違いなくハードは日本が世界一やと思いました。ところが、使えない。例えばJRさんで障がい者割引をもらうために、どうしたらいいか知ったはりますか。事前に駅長室まで行って、書類を出してお願いせんとあかんのですよ。ただでさえ動くのがしんどい障がい者に、二度手間を求める。こんなにまでして半額にしてもらわなくてもええのんとちゃうって思いました」

おそらくは過渡期ならではの現象なのだろう。このあたりの対応は交通機関によってバラツキもあるようだ。

「阪急さんは最初、子ども運賃を選んでくださいって言ってました。でもそれはあまりに不自然でしょう。だから券売機に半額ボタンを付けてくれた。これだけでも大きな前進ですよね」

地下鉄駅の構内案内図もごちゃごちゃしていてわかりにくいという。確かに公共交通機関の運営サイドとしては、あらゆる情報が網羅されていなければならない。これは宿命である。しかし、そのために結果的に情報弱者が生まれている。

「そもそも駅の案内図はほとんど頼りにしてない。見てもよくわからんからね。そういえば日本は東京駅がバリアフリーとはいえないのも残念。カタコンベみたいな地下道に案内されて、業務用エレベーターに乗せられるんやから。これが国際都市東京の玄関口かと思うと、ちょっとねえ」

健常者の視点から抜け出すのは、ことほど左様に難しいのだ。それはいみじくもナミねぇが訴える、日本人の優しさに根を発する現象でもある。

「僕ら、こんなに障がい者の人に手厚くしてるのに、何があかんのですかって。行政の人と話をすると、どうしてもそこに行き着くんやね。
手厚くしてくれることを否定はしませんよ。でも、違うねん。

みんなチャレンジドとして、普通に働きたい、生きたい。
それだけなんですよ。

チャレンジドも含めて、ほんとうの国民主権、主権在民の国にするために、まだまだ改善せなあかんところがいっぱいあります。えきペディアさんとも一緒にがんばってくださいね。娘のおかげで、昔不良やったナミねぇは更正してプロップの活動してるねん。 娘は私の恩師で宝物やわ!」と、ナミねぇは締めくくってくれた。

「プロップ・ステーションの挑戦」、「ラッキーウーマン」など著書も多いナミねぇ。
パワフルなことこの上ないが、その活動力の源は、おかしなルールに従う必要はないという固い決意。


確かにハンディはある。だからこそ、挑戦せんとあかん。これがチャレンジドの考え方


インターネットを使えば、働く場所の制約から解放される。そもそもコンピュータは本来、人の能力をエンパワーメントするツールだ。


ナミねぇのファーストシングルCD。売上のすべてはプロップの活動に寄付される。申し込みを希望される方は下記リンクから。
http://www.prop.or.jp/news/topics/2009/20090428_01.html



運営者
社会福祉法人プロップ・ステーション
理事長 竹中 ナミさん
プロップ・ステーションのホームページ http://www.prop.or.jp/index.html

(写真提供:社会福祉法人プロップス・テーション)

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