バリアフリーNOW バリアフリーを求めている人、バリアフリーに取り組む人、バリアフリーを考えている人の生の声、活動などをインタビューでお届けします。

vol.1
なぜ僕は、一人でトイレのNPOを始めたのか?

 バリアフリートイレの情報をみんなで集め、みんなで更新して、どんどん便利にする。まさにWeb2.0の時代にふさわしいサイトが「Check a Toilet」。 NPO法人Checkを一人で立ち上げ、一人でも多くの人に使ってもらえるよう全国を奔走する金子さんに、その問題意識とバリアフリートイレの現状などを伺いました。


■第一回『どこに、どれだけあって、どうなっているの?』

「車イスで入れるトイレがあるのかどうかさえわからない。とにかく、何も情報がなかったんですよ」

金子氏は大学卒業後、ある大手旅行代理店に勤めていた。旅行企画を立てるときに重要なポイントとなるのが、お客様に車イスユーザーがいるかどうかだったという。

「一人でも車イスの方がおられると、トイレの問題がとても重要なテーマとなってきます。ところが車イスでも使えるトイレがどこにあるのかがさっぱりわからない。会社にはいろんな観光地についてのデータベースはありましたが、トイレ情報は蓄積されていない。そこで観光協会に問い合わせるんだけれど、これまがた要領を得ないんですね」

わずか数年前の話である。もちろん観光協会の中には、どこにバリアフリートイレがあるかぐらいの情報なら持っているところもあった。
「でも、広さはどれぐらいありますか、と突っ込むと、そこまではわからないといわれるケースが圧倒的。行ってみないとわからないような状況では、お客様を安心して案内することなど絶対に無理です」

結局、企画を立てるたびに金子氏は事前に現地調査をする羽目になった。観光旅行のコースなど国内に限ればたいてい決まっている。何回も同じコースが使われているにもかかわらず、なぜかトイレに関する情報はまったく蓄積されていなかった。

「下見に行くたびに、これって時間の無駄だよなあとつくづく思ったんですね。とりあえず自分が調べた情報だけでもデータベースにできれないものかと思うじゃないですか。ということは、そんなデータベースがもしインターネットにあれば、みんなが使えてすごく便利じゃないかと気づいたわけです」

Check A Toiletの原型ともなる漠然としたプランを金子氏が思いついたのは2003年ぐらいのことだという。当時はまだmixiなどのSNSもなく、Web2.0といったトレンドはもちろん、そんな言葉さえまだ存在しなかった。

「バリアフリートイレのデータベースを作る。このアイデアを勤めていた会社に提案しようとは考えなかったですね。言っても、たぶんわかってもらえないと思っていましたから。旅行業界って意外に保守的なんですよ」

その後自治体などにも問い合わせ先を広げてみると、さすがに行政組織はたいてい印刷物のマップぐらいは用意していたという。ただし紙に印刷されたマップとなれば、情報の鮮度が問題となる。

「そもそもこれはいつのデータなんですかと尋ねれば、そこまではわかりませんね、なんて答しか返ってこない。元々そんなに需要があるわけではないが、かといってマップを備えてないと問題になる恐れがある。だからとりあえず作ってはみたものの積極的にアピールすることもなかったのでしょう。そもそもそんなマップがあることすら一般的には知られてないような状況だったのです」

こうした活動を続ける一方で金子氏はその問題意識の高さゆえに、いつしか介護旅行のスペシャリスト的な存在となっていった。トイレ情報に対する意識は自然と金子氏を、介護が必要な人たちにとっての理想的な旅行のあり方へと向かわせたのだろう。
「情報がなくて困っていたのは、僕が処属していた会社だけじゃありません。どこの旅行代理店も断片的なデータしか持っていない。みんなが困っているんだったら、誰かがきちんとしたデータベースを作らなきゃいけないな、それは僕にしかできないのかもしれないなと思ったわけです」

もちろん、そんなデータベース作りが旅行代理店としての業務の一環として認められるはずもない。あっさりと見切りをつけた金子氏だが、意外にも次にとった行動はシステム会社への転職だった。

第二回『みんなで作るトイレマップ』へ続く


トップページはシンプルでトイレの検索・登録が目立つよう
デザインされている。


フリーワード検索では、住所、駅、施設名、郵便番号などからの検索ができる。
例えば「大阪駅」で検索すると、近辺のバリアフリートイレが一覧で表示される。


地図上に表示されたアイコンの「詳細」を選択すると、
各トイレの詳細情報を見ることができる。


フリーワード以外に詳細な条件検索も可能。


運営者
特定非営利活動法人Check
代表理事 金子健二氏
checkatoiletのホームページ http://www.checkatoilet.com

第二回『みんなで作るトイレマップ』

「インターネットでトイレマップを作りたい。面接で、いちばんにアピールしたのが、この思いですね」

金子氏が面接を受けたのは、ごく普通のシステム会社だという。そこでいきなりトイレマップを作りたいといっても、相手に話が通じるわけはない。

「だから、前に旅行会社にいて、トイレの問題がこんなに困っていて、トイレマップがあればみんなが喜ぶんですよと。一生懸命に説明したら、熱意だけは何となく伝わったみたいでした」

ともかく、そのシステム会社に何とか潜り込むことができた。それから金子氏はシステム、プログラムについて猛勉強を始める。それ以前にはシステムに関してまったくのド素人、プログラムについてはイロハのイすら知らなかったのだ。にもかかわらず金子氏は、無謀にも独力でトイレマップサイトを立ち上げようと考えていた。

「もちろん最初は企画書をきちんと書いて、会社のビジネスとして取り上げてもらおうと努力はしたんですよ。でも、結局ビジネスベースで判断すると、ユーザーの絶対数はどれだけあるんだって話になっちゃう。採算は合うのかと問いつめられると、答えられないんですよね」

とはいえ社会状況は決して固定されたままではなく、岩のように動かないわけでもない。特にネット関連の動きは極めて速い。会社への提案は実らなかったが、金子氏にとって確実なフォローとなる風が吹き始めていたのだ。ポイントは二つ、mixiに代表されるSNSの広がり、そしてGoogleマップの登場である。

「Googleマップを見た時は、飛び上がって喜びましたね。これさえあれば地図のコスト問題は解消できるじゃないかって。僕の考えていたトイレマップを作る上で最大のネックが地図だったんです。まともにいけば何百万円もかかる地図情報が、Googleマップを使えばタダになる。これは神さまがくれたチャンスだと思いましたね」

さらにSNSの普及は、みんなが寄ってたかって集めたデータを、一つのサイトに集約するイメージを金子氏にもたらした。そのイメージは、まさに今の『Check a Toilet』に直結する。

「もう一人で勝手にテンション上がりまくりみたいになっちゃって。でも、自分一人でサイトを作ることが無理なこともわかってきましたから焦りましたね」

焦燥感に駆られた金子氏は、いても立ってもいられずにシステム会社を退職する。そして、いよいよ本格的に活動を始めた。まずトイレマップを作っている団体をしらみつぶしにまわり始めたのだ。同時に夜はコールセンターでアルバイトに精を出した。

「とにかく一刻も早くまとまったお金を用意して、誰かに頼まない限りサイト作りは進まない。幸いコールセンターは夜の仕事だから、昼間はトイレマップ集めに使えるわけです。ろくに寝る時間もないからめちゃくちゃ体はきつかったですが、夜のバイトは時給もよかったのでがんばりました」

やがてバイトで貯めた資金をすべて投入して、サイトオープンにこぎ着ける。今に続く『Check a Toilet』の原型だ。同時にサイトを運営していく仕組みとしてNPOを選択、申請のための書類作りに取り組んだ。この頃には金子氏の考えに共鳴する人たちが少しずつ集まりつつあった。デザイナーやWeb系に強いエンジニアなどサイト作りをサポートしてくれるメンバーに加えて、NPO申請で何くれとなく手を貸してくれた今の副理事だ。

「サイトができて、NPO法人として認可もされて、それからですね、情報の集まり具合に加速度が付いたのは。日本中の自治体、ショッピングセンターや鉄道など公共性の高い事業を展開している企業に、メールを送り電話をかけ、さらには直接出向いて行ってお願いしまくりの日々でした」

地道な努力が功を奏して、少しずつ情報が集まり始める。情報がある閾値を超えると、そこから急激な右肩上がりに入るのがネットの特長だ。

「より手軽に、いつでも、どこでも情報を得られるようにとモバイルサイトをオープンしたのが2008年の3月。これがキッカケとなってすぐに登録トイレ数が2万件を超え、その後1年でさらに1万件が上乗せされました」

行政へも地道なアプローチをかけ続けた結果、自治体とコラボレーションできるケースが出てきた。システム系企業との提携も生まれた。

「とはいえ、まだまだです。バリアフリートイレは、僕の見立てでは日本に10万件ぐらいあるはず。だから何とか早く最低でも7万件ぐらいは情報を抑えたい。ただ、とにかく運営資金がない。だから、未だに一人で走り回っています。この状況を一刻も早く抜け出したい」

マンパワーも、マネーも無い無い尽くしの中で、それでも4万件に迫ろうかという勢いでトイレ情報が集まりつつあるのが、現状の『Check a Toilet』だ。

「Check a Toiletって、名前にあえて動詞(=Check)を使っているのには訳があって、これははずっと続くプロジェクト、いつも進行形だという意味なんです」

その金子氏の最終ゴールは、世界中を網羅したバリアフリートイレマップをインターネット上に作ること。壮大な使命感を支えているのは『誰もが楽しく自由に好きなところに行けるように』という旅行会社時代に芽生えた熱く固い「優しい」想いだ。


googleとの連携でgoogleマップからトイレ検索ができるようになりました。




PetaMap というマップサービスとも連携




全国のトイレマップをいろいろなプラットフォームから探せます




運営者
特定非営利活動法人Check
代表理事 金子健二氏
checkatoiletのホームページ http://www.checkatoilet.com
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