「車イスで入れるトイレがあるのかどうかさえわからない。とにかく、何も情報がなかったんですよ」
金子氏は大学卒業後、ある大手旅行代理店に勤めていた。旅行企画を立てるときに重要なポイントとなるのが、お客様に車イスユーザーがいるかどうかだったという。
「一人でも車イスの方がおられると、トイレの問題がとても重要なテーマとなってきます。ところが車イスでも使えるトイレがどこにあるのかがさっぱりわからない。会社にはいろんな観光地についてのデータベースはありましたが、トイレ情報は蓄積されていない。そこで観光協会に問い合わせるんだけれど、これまがた要領を得ないんですね」
わずか数年前の話である。もちろん観光協会の中には、どこにバリアフリートイレがあるかぐらいの情報なら持っているところもあった。
「でも、広さはどれぐらいありますか、と突っ込むと、そこまではわからないといわれるケースが圧倒的。行ってみないとわからないような状況では、お客様を安心して案内することなど絶対に無理です」
結局、企画を立てるたびに金子氏は事前に現地調査をする羽目になった。観光旅行のコースなど国内に限ればたいてい決まっている。何回も同じコースが使われているにもかかわらず、なぜかトイレに関する情報はまったく蓄積されていなかった。
「下見に行くたびに、これって時間の無駄だよなあとつくづく思ったんですね。とりあえず自分が調べた情報だけでもデータベースにできれないものかと思うじゃないですか。ということは、そんなデータベースがもしインターネットにあれば、みんなが使えてすごく便利じゃないかと気づいたわけです」
Check A Toiletの原型ともなる漠然としたプランを金子氏が思いついたのは2003年ぐらいのことだという。当時はまだmixiなどのSNSもなく、Web2.0といったトレンドはもちろん、そんな言葉さえまだ存在しなかった。
「バリアフリートイレのデータベースを作る。このアイデアを勤めていた会社に提案しようとは考えなかったですね。言っても、たぶんわかってもらえないと思っていましたから。旅行業界って意外に保守的なんですよ」
その後自治体などにも問い合わせ先を広げてみると、さすがに行政組織はたいてい印刷物のマップぐらいは用意していたという。ただし紙に印刷されたマップとなれば、情報の鮮度が問題となる。
「そもそもこれはいつのデータなんですかと尋ねれば、そこまではわかりませんね、なんて答しか返ってこない。元々そんなに需要があるわけではないが、かといってマップを備えてないと問題になる恐れがある。だからとりあえず作ってはみたものの積極的にアピールすることもなかったのでしょう。そもそもそんなマップがあることすら一般的には知られてないような状況だったのです」
こうした活動を続ける一方で金子氏はその問題意識の高さゆえに、いつしか介護旅行のスペシャリスト的な存在となっていった。トイレ情報に対する意識は自然と金子氏を、介護が必要な人たちにとっての理想的な旅行のあり方へと向かわせたのだろう。
「情報がなくて困っていたのは、僕が処属していた会社だけじゃありません。どこの旅行代理店も断片的なデータしか持っていない。みんなが困っているんだったら、誰かがきちんとしたデータベースを作らなきゃいけないな、それは僕にしかできないのかもしれないなと思ったわけです」
もちろん、そんなデータベース作りが旅行代理店としての業務の一環として認められるはずもない。あっさりと見切りをつけた金子氏だが、意外にも次にとった行動はシステム会社への転職だった。
第二回『みんなで作るトイレマップ』へ続く
|
|
トップページはシンプルでトイレの検索・登録が目立つよう デザインされている。
フリーワード検索では、住所、駅、施設名、郵便番号などからの検索ができる。 例えば「大阪駅」で検索すると、近辺のバリアフリートイレが一覧で表示される。
地図上に表示されたアイコンの「詳細」を選択すると、 各トイレの詳細情報を見ることができる。
フリーワード以外に詳細な条件検索も可能。
運営者 特定非営利活動法人Check
代表理事 金子健二氏
checkatoiletのホームページ http://www.checkatoilet.com |